あらすじ
人はいつしか、生を全うするために設えたはずの社会によって、その生そのものを|逼塞《ひっそく》させるようになった。
貨幣、労働、家族、身分、信仰、規範――それらは本来、人が群れて生きるために編み上げた方便であったはずなのに、積み重なるうち制度は自らを目的とし、人間の側へ|馴致《じゅんち》を求めるものへと変貌していく。宮本|悟《さとり》は、そんな世界との|齟齬《そご》を埋められぬまま四十二年を生き、ついには自ら生を|擲《なげう》った。
しかし、死は彼を解放しなかった。
死後に待っていたのは終焉ですらなく、時間だけが堆積していく千年の幽囚であり、その果てに放逐された異郷で彼が得たものは、何より望まなかった不死の肉体だった。
もはや悟には、幸福という名の模範へ己を近づける意思すらない。他者の尺度に沿って生きることも、社会の要請に己を馴致させることもやめ、自らを苛んできたものから一つずつ離れていく。そこに思想も大義もなく、ただこれ以上、自分の生を他者へ委ねまいとする|倦厭《けんえん》だけがあった。
ところが、世俗から退こうとする彼の周囲には、なぜか人が集まり始める。
何かを与えようとしたわけでも、誰かを救済しようとしたわけでもない。それでも彼の傍らでは、これまで当然とされてきた秩序が少しずつ意味を失い、人々は自分が何に従い、何を畏れ、何のために生きていたのかを否応なく問い返すことになる。
人を苦しめるものは、生そのものなのか。それとも、生を安寧たらしめるために築いたはずの夥しい仕組みなのか。
生を厭い、死を希求する男の周囲でのみ、奇しくも人々は生へと還っていく。
死想郷――それは理想を掲げた者が築く楽土ではなく、この世界に倦み果てた男の背後へ、いつの間にか生じてしまった一つの郷である……
と、難しい言葉を使いまくってあらすじを作ってみたが、読んでみたら、わりとサクッと読めるかもしれないからハイ、レッツゴー!