あらすじ
刑部真一の死から二年。
警察官・水城沙耶のもとに、一人の女が自首してくる。
「十五年前、私は妹を殺しました」
女の名は榊美紀。
彼女は、白川真白という妹を死なせたと語る。
だが戸籍にも学校記録にも、そんな妹は存在しない。
それでも美紀は、真白の好物も、癖も、左手首の火傷も覚えていた。
やがて、消防士、元同級生、古い資料の関係者――本来なら互いに接点のない人々までもが、同じ少女を「覚えている」と証言し始める。
存在しないはずの少女。
残っていないはずの記録。
そして、刑部が生前残した捜査資料の中にも、覚えのない「真白」という名前が現れる。
水城は、記憶ではなく記録を信じようとする。
だが写真も、日記も、供述も、記録された瞬間から別の誰かの記憶を作り始める。
やがて浮かび上がるのは、映像制作者・片瀬黎司による意図的な情報操作だった。
偽の記録を流し、証言者同士の記憶を混ぜ合わせ、人間がどこまで「存在しなかった人物」を信じるようになるかを試していたのだ。
事件の多くは、それで説明できる。
ただ一つを除いて。
片瀬が真白という名前を使い始めるより以前から、その名前は記録の中に残っていた。
そして水城自身もまた、自分には書いた記憶のない一文を見つける。
――刑部、真白について再度確認。
記憶が記録を作るのか。
記録が記憶を作るのか。
刑部の死後も残り続ける事件の「余韻」の中で、水城は、自分が信じてきた過去そのものを疑い始める。