あらすじ
「少し休みます」
妻の透子がそう書いたメモだけを残して家を出た翌朝、戸籍住民課で働く佐伯直人の食卓に、離婚届が置かれていた。
捨てても、破っても、翌朝には新しい一枚が届く。付箋に書かれているのは、透子の誕生日でも結婚記念日でもない。直人が「あとで聞く」と先送りし、共有カレンダーから消した日付だった。
妻が家に入れるはずのない夜にも、届く紙。古い新聞受け、早朝の配達網、透子が残した小さな休み部屋。日付を追うたび、直人は妻が一人で抱えていた生活と、自分が見ないふりをした沈黙に出会っていく。
離婚届は、妻を連れ戻すための地図ではない。30枚目の朝が来る前に、直人は透子の居場所ではなく、透子がもう自分で選び始めた人生を探さなければならない。