あらすじ
伯爵家の屋根裏で、私は毎晩針を動かしていた。
私が縫った守り刺繍は、妹ミレーヌの「聖刺繍」として社交界で称えられる。私の名前は、どこにも縫われない。
そんな私に届いたのは、北辺の公爵レオンハルト・グレイヴスとの縁談だった。
触れた者を凍らせる呪いを負い、三人の婚約者に逃げられた「氷の公爵」。
「一年。俺が死ぬか、一年が過ぎるか。早いほうで君は自由だ」
差し出されたのは、白い結婚の契約書。
けれど私には見えていた。旦那様の手袋に絡む、黒い糸が。
――この呪いは、血ではない。誰かが縫ったものだ。
一針ごとに、旦那様の氷は溶けていく。
名前を奪われてきた針子令嬢が、自分の名を縫い込むまでの物語。
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