あらすじ
裏社会には、ひとつの名が囁かれている。
――夜剣(ヤケン)。
月のない夜に現れ、闇に巣食う者たちを一夜にして消し去る。 その姿を見た者はいない。 男か女か。老人か子供か。そもそも人なのかすら、わからない。
ある者は言う。夜剣とは、百年前に滅んだ暗殺者一族の最後の生き残りだと。 ある者は言う。夜剣とは、王国が秘密裏に飼っている処刑人だと。 ある者は言う。夜剣など存在しない。裏社会の者たちが、己の罪に怯えて生み出した影にすぎないと。
ただひとつ確かなのは。 その名を口にするとき、どんな大物も声を潜めるということだ。
「夜剣が来るぞ」
それは、この国の闇で最も恐れられる言葉である。
――そして今夜。 その名が、ひとりの男の口から、盛大な誤解とともに発せられることになる。