あらすじ
恋をしたいなんて、思ったことはなかった。
俳優として、これまで何度も恋を演じてきた。
誰かを好きになり、愛して、別れる。
カメラの前では、何度だって恋をした。
けれど、それはすべて「役」としての僕だった。
そんな僕が、ある秋の日。
人混みの中で、一人の女の子を見つけた。
何度も小さく跳ねながら、
必死にステージを見つめていた女の子。
後に仕事の現場で再会した彼女は、
僕のことを知っているはずなのに、何も特別なことをしなかった。
ただの偶然だったはずの出会い。
名前を知って。
少しずつ彼女のことを知って。
気づけば僕は、
彼女のことを考える時間が増えていた。
けれど、僕のいる世界は、
誰かを好きになることさえ簡単には許してくれない。
近づきたい。
もっと知りたい。
それでも、近づけば近づくほど、
彼女の日常まで壊してしまうかもしれない。
だから僕は、
伝えられなかった想いを、一通の手紙に残した。
これは、
僕が初めて恋をした話。
そしてたぶん、
僕の中で一番長く残る、恋の話。