あらすじ
幼い頃から、同じ夢を見続けてきた。
天井から降り注ぐ白い光。横たわる自分。周囲に立つ人影。そして最後に聞こえる、意味の分からない言葉――「シュヴァルツ」。
神谷蒼は、その夢を「ただの夢」だと思って生きてきた。無意識に左手首を押さえてしまう癖も、単なる癖だと。
けれど、ある日を境に、説明のつかない違和感が次々と蒼を襲い始める。
消毒液の匂いに揺さぶられる身体。教わった覚えのない、医療器具の使い方。学んだことのないドイツ語への反応。一度も訪れたことのない、雪の街並みへの既視感。
バラバラだったはずの違和感は、やがて一つの方向を指し始める。
戦争末期、東部戦線の野戦病院。
敵味方を分け隔てなく治療した一人の軍医。
そして、夢の中に現れる、赤いリボンの少女。
民俗学者・九条礼司の力を借り、蒼は自らの「記憶」の出所を一つずつ検証していく。だが、辿り着く先にあるのは、英雄譚でも、単純な答えでもなかった。
これは本当に、前世の記憶なのか。
それとも、別の何かなのか。
証明できない過去と向き合った先で、蒼が見つける「今の人生」の答えとは。
静かな筆致で描かれる、記憶と赦し、そして再生の物語。