あらすじ
魔王は倒した。金も名声もある。
前世の記憶は、今さら戻った。
“大斧のディーファング”、四十三歳。
異世界転生に気づいたときには、それらしい冒険をだいたい終えていた。
成り上がりは達成済み。
田舎でスローライフ? 森暮らしは幼少期にやった。虫が多かった。
愛用の大斧も、店に入りづらいので今は自宅に飾ってある。最近は素手で十分だ。
そんな男が思い出した、前世で果たせなかった夢。
――武道館に立ちたい。
まずは酒場で歌ってみた。
拍手喝采。満場の称賛。
しかし、客の顔には見覚えがある。
これは前世の忘年会で、酔った市長の歌に拍手していた俺たちの顔だ。
欲しいのは、そういう拍手ではない。
口の達者な酒場の楽士。
低音に妙なこだわりを持つ魔道具職人。
なぜか魔法を使わずドラムに熱中する、かつての戦友エルフ。
仲間と始めるのは、次の魔王討伐ではなくバンド活動。
目指すは、一万人を収容する王都の大闘技場。
英雄を見に来た客ではなく、自分たちの音楽を聴きに来た客で、あの場所を埋めたい。
戦えば頼れる伝説の男も、楽器を持てば初心者だ。
これは、苦労しなくても暮らせる男が、好きなことのために苦労を始める物語。