あらすじ
人の悩みには、案外いろいろ言える。
やめときなよ。いや、行っちゃえって。それ、情報足りなくない?
自分のことになると、とたんに何も言えなくなるくせに。
とある街の、小さなバー。
カウンターには、気づけばいつもの顔ぶれが集まっている。
店長の坂本満は、人に話しかけられる才能だけでここまで来たような男。
幼なじみの白石悠真は、正しいことを、正しくない言い方で言う。
その妹の白石みのりは、柔らかい顔のまま、ときどき核心を突いてくる。
そしてアルバイトの大学生、小野寺凛。三人を少し離れたところから眺めて、「それ、そんなに難しい話ですか」と言う。
「初デートで割り勘だった。これって脈なし?」
そんな話ひとつで、四人は一時間しゃべれる。
みのりは気持ちを見る。悠真は条件を並べる。満は「で、その人はどうしたいの」と聞く。凛は今どきの感覚を持ち込んで、ついでに全員にツッコむ。
同じ答えが出ることは、あまりない。
誰かが正しいときもあるし、全員ちょっとずつ外していることもある。
恋愛、結婚、お金、仕事、家族、友情。
「これって普通?」くらいの小さな引っかかりから、簡単には決められない選択まで。
四人は専門家でも相談屋でもないし、答えを配るつもりもない。ただ話しているうちに、最初とは少し違う景色が見えてくる。見えてこない夜もある。
それに、四人にもそれぞれの生活がある。
仕事のこと。これからのこと。まだ口に出していないこと。
他人に向けてきた言葉が、いつか自分に返ってくる日も来るのかもしれない。
でも、それはまた先の話。
今夜もカウンターでは、誰かが何かを言いかけている。
それはそれとしまして。
ちょっとひとこと、言わせてくれまいか。