あらすじ

大正十年、春。 山深くに建つ「白峰療養院」。 そこは、町の病院でこれ以上の治療は難しいと告げられた、若い娘たちが送られてくる場所だった。 十八歳の新人看護婦・小宮咲子は、借金を返すため、この療養院へやってくる。 そこで出会ったのは、美しく厳格な看護婦長・八重川千鶴。 千鶴には、奇妙な噂があった。 ――死期の近づいた娘の部屋から、夜になると楽しそうな声が聞こえる。 ――娘たちは千鶴を慕い、恋をし、そして翌朝には幸福そうな顔で亡くなっている。 「死ぬ娘を幸福にして、天国へ送る女」 咲子はそんな噂を信じなかった。 けれど、千鶴の本当の姿を知っていく。 恋をしたこともない。 誰かに綺麗だと言われたこともない。 病に痩せた自分を醜いと思い、恐怖の中で死を待つ少女たち。 千鶴は、そんな彼女たちが差し出した想いを拒まない。 綺麗だと言う。 好きだと伝える。 手を握り、抱きしめる。 最後まで「死にゆく患者」ではなく、一人の少女として愛するために。 だが、少女たちが幸福なまま旅立つたび、千鶴だけがこの世に残される。 そしてある春の日。 余命三月と告げられた十八歳の少女・久世澄が、白峰療養院へやってくる。 「私、恋なんてしませんから」 「幸せにもならない」 そう言い切った澄に、千鶴は静かに告げる。 治せない病があるのなら―― 「治せるものを治します」 「何を?」 「孤独を」 これは、死を美しく描く物語ではない。 限られた時間の中で誰かを愛し、愛され、 最後の瞬間まで生きようとした少女たちと。 彼女たちを愛するたびに傷つき、それでも再び手を差し出す一人の看護婦。 そして、そんな彼女を一人にしないと決めた少女の物語。

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カクヨム
カクヨム2026/09/23
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