あらすじ
お湯を注いで3分待ってカップラーメンが完成したら3分時間が進んだことになるんですか? 違いますよね。実際には、ラーメンが美味しく食べられる状態になった、という変化があっただけです。宇宙のどこにも時間は存在しません。ものすごくあたりまえの話です。人が勝手に変化の積み重ねを「時間」と呼んでいるに過ぎません。そう、時間なんて現実には存在しないんです。
時間は概念です。
人ってのはいろいろ考えますからねえ。この世には概念がたくさんあります。中でも我々の生活に身近な概念には「実在するのではないか」と勘違いされやすい傾向があるように思います。「愛」とか「幸せ」とか、実在すれば素敵なのに……、概念なんです。「時間」は勘違いされやすいものの筆頭格候補かもしれませんね。そういった勘違いをものともせず、人は空想を膨らませます。たとえば、「時間」に対して「移動」という挙動を成立させることで有名な「タイムマシン」なる装置は空想の対象として多用されてきました。もちろん、そんな挙動は理論的に不可能です。
……この『可愛いストーブの時間』という小説はタイムマシンの物語です。
落ち着きましょう。早合点はいけません。「時間移動」とは異なる手段で別時刻に行ける、そんな方法があるとすれば話は変わるんです。言葉遊びではありませんよ。科学的な見地からの考察です。別時刻に行くことは可能なのか? 理論の上では可能です。21世紀現在では技術的に無理があります。23世紀ならどうでしょう。やはり技術的に無理がある気がしなくはないですが、そんな遠い未来のことは私にはわかりません。もしかすると出来ているかもしれませんよ、そんな技術が。そういった事情はともかく。なんというか、理論的に矛盾が無いなら小説という創作の中で作成してしまえばおもしろいことになるかもしれないではないですか。事実、本作に登場する「理論上制作可能なタイムマシン」は微妙にポンコツでおもしろいです。ただし、付随する理論自体はなかなかに破壊力があります。未来科学はあなたの探求心を心地良く刺激する、……そんな読書体験になる、と私はみなさんに約束します。
ところでこの場は作品のあらすじを紹介する役割も持っていましたね。あらすじを紹介します。
三人家族で平凡に暮らしていた一家は、未来少女に未来へ帰るまでの数日間の居候を許可した。
この少女、いい意味で変わり者だった。
相対する一家は、長男が向学心の強い中学生、父親がしっかりと常識を持っているけど実は隠れ変わり者、母親が家事全般を得意とする普通にまともな大人、そんな布陣で始まった同居生活だった。
団欒の中で少女が口にする話は、一家を混乱させる。未来の話はおもしろい。それは認める。ただ、未来はそんなことになっているのか、と驚かされる。理解が追いつかない。
そしてリビングの隅に置かれている「別時刻へ行くことを可能にする装置」は出番が少ない。少女は思う。強く思う。せっかくタイムマシンがあるのに積極的に利用しないでどーする、と。息子がほしかった父親は一時的に娘ができたことに常識をもって対応する。娘がほしかった母親は一時的な娘に大喜びで接する。両者ともタイムマシンという訳のわからない装置には興味を示さない。後に少女のことを「ほんとの姉ちゃんだったら良かったのに」と願うことになる長男は、未来エピソードに夢中で、未来科学に思考を巡らすのが楽しくて、タイムマシンは二の次だ。
長男は気づく。この少女は頭が良くて可愛いだけではなく、おもしろくて優しくて頼りになる。望まれているのならタイムマシンを利用する方向で動いてみよう。そんなふうに考える。利用した結果、部活動の後輩の女子生徒が自分に好意を寄せている事実を知る。変な事態になった。以後、どうやって後輩と顔を合わせればいい? そもそもこのタイムマシン。操縦が難しくて自分一人では動かせない。出来ることと出来ないことの判断も難しい。少女を我が家に連れてきてくれたことには感謝するが、それだって操縦に失敗した結果だ。とにかくタイムマシンは難しい。
限られた同居時間をおもしろくて楽しい内容にしたい少女は、明るく元気に振る舞う。一家は四人家族で過ごす日々を自然に受け入れていく。別れのときが訪れる。少女が未来に帰還する日になる。一家は、寂しさを感じつつ少女を見送る。
という感じです。悪の組織と戦ったり、過去の悲劇を食いとめて希望がある未来に変えたり、といった展開はありません。そんな要素を入れると「この作品で私が書きたいこと」の内容が濁ります。矛盾を回避した理論の延長上にはどんな未来世界が待っているのか。この部分をしっとりと味わっていただきたいんです。
肝心のタイムマシンの理論はふんわりとしか説明されていません。物語の骨格の都合で仕方がないことなんです。ご安心ください。続編となる『可愛いストーブの時間 数学の悪魔』でがっつり説明されます。本作の投稿を終えたら間隔を空けず既に執筆済みの続編を投稿します。楽しんでいただけると信じています。二本とも執筆済み、それなら一度に全部投稿してしまえばいい、という考え方があります。ただね。約28万字の文章をどーんと出されたら「長いから拒絶反応が出る」という読者さんも少なからずいるのではないでしょうか。綺麗事は言いません。一人でも多くの人に読んでもらいたいから「読みやすい文字数」で投稿しようと決めました。なるべくたくさん読んでほしいんです。執筆者としての本音です。「もったいつけてるみたいで気に入らない」と感じる読者さんには申し訳ありません。最後まで投稿し終えたタイミングで読み始めていただければ、私としては幸いに思います。