あらすじ
「山形の食と暮らしについて、肩の凝らない文章をお願いします」
県内在住の小説家に、そんな言葉で連載をお願いしました。
本書は、本紙に連載した『芋煮を手放す。』全九篇に加筆を施し、一冊にまとめたものです。
ヤマザワとおーばんでの買い物。馬見ヶ崎と松川の芋煮会。使い慣れた醤油と、作り手のいなくなった味。著者は山形市と米沢市の台所を行き来しながら、親しい相手への便りを綴ります。
河原で背に幾重もの腕をひらき、その手ごとに椀を持つ星野源と鍋を囲み、無印良品では母の使い跡を残したおたまを一本選び、雨の日には知人の家で大勢の客と食事をする。連載原稿には、買い物メモや聞き書き、古い書物からの抜き書きも添えられていました。本書には、これらも便りとともに収めています。
「いつものあの味」は、何が同じなら同じなのでしょう。
材料も作る人も変わってゆくのに、なぜ私たちは、今年も同じ芋煮を食べたと思うのでしょうか。
味噌の鍋を味わい、羊肉とトマトの鍋をおかわりする。
便りは身近な食事から遠くへ出かけ、やがてまた、醤油の匂いのする台所へ戻ってきます。
食と記憶、人との付き合いを、静かな語りとユーモアで見つめる九篇。
里芋が煮えるのを待つあいだに、少しずつお読みください。
――山形新聞編集部