あらすじ
語り手は、旅行鞄の持ち手に付いた小さな真鍮の鈴です。目がないので、音だけで世界を見ています。
持ち主は藤谷ちはる、二十九歳。六月で三十になります。旅と、旅先での出会いが好きな会社員です。手帳の表紙の裏には毎年、命は短し走れよ乙女、と書き写します。本当は恋せよ乙女という歌なのですが、七年前から間違えたまま、走り続けています。
三月、雪の霧尾へ二泊三日。雪は音を吸うので、わたしにはよく聞こえない旅でした。
去年の秋から、ちはるさんは走らなくなりました。今回は、追いかけずに済む旅でした。向こうから来てくれたからです。