あらすじ
三十一歳、独身。
東京で働いていた三浦晃司は、仕事が完全リモートになったことをきっかけに、福島県いわき市の古い一軒家を格安で譲り受ける。
広すぎる家で始まった、気楽な一人暮らし。
そんなある日、玄関先に一人の少女が現れた。
小学五年生、十一歳の倉田紬。
「ここ、前に私が住んでました」
父親の転勤で何度も引っ越してきた紬にとって、そこは幼い頃、父と母と三人で暮らした思い出の家だった。
そして現在、父親は病気で入院中。
紬は親戚の家から転校先の学校へ通いながら、少しずつ昔の家へ足を運ぶようになる。
最初はただの元住人。
それが、昼飯を食べるようになり。
宿題をする机ができ。
「こんにちは」が「ただいま」に変わり。
晩ごはんを二人で食べ。
合鍵を持ち。
やがて紬は、もう一度その家で暮らし始める。
血のつながりは遠く、親子でもない二人。
それでも毎日を一緒に過ごし、学校へ送り出し、帰りを待ち、喧嘩をして、病気をして、季節を越えていくうちに、家は少しずつ二人の帰る場所になっていく。
これは、帰る場所を求めた少女と、家だけは手に入れた男が、長い時間をかけて家族になっていく物語。
そしていつか、その「家族」という言葉だけでは足りなくなるまで。