あらすじ
あらすじ
セレネア王国では、人の歌声から生まれる魔力――響砂によって季節が巡る。
なかでも夏至祭で歌われる「蒼天曲」は、王都に夏を呼ぶ特別な聖歌だ。選ばれた歌姫が“天使役”として最後の一節を歌い上げることで、長い雨季が終わり、国中に夏が訪れる。
ところが祭りの一週間前、天使役の少女ミナが、鍵のかかった部屋から忽然と消えた。
部屋に残されていたのは、誰が作ったのか分からない星形の砂糖菓子と、意味のない一音だけが書かれた楽譜。
王宮に呼び出されたのは、街外れで菓子店を営む少女、リラ・シュガー。
彼女には、食べ物に残った感情や記憶を味として読み取る奇妙な力があった。甘い菓子に混ざった嫉妬、苦い酒に残った後悔、舌に刺さる嘘。菓子職人としては便利だが、人付き合いにはいささか向かない能力である。
しかも、リラの母親は八年前、王宮音楽院で起きた“秘密の事故”のあとに失踪していた。
リラを宮廷へ招いたのは、歌えない王太子シオン。
人当たりがよく、誰にでも意味深な笑顔を向けるため、「思わせぶり王子」と陰で呼ばれている彼は、リラに告げる。
「消えた天使を探してほしい。君の舌なら、あの菓子に仕込まれた声が誰のものか分かるはずだ」
甘いはずの砂糖菓子から聞こえたのは、失踪した歌姫の声ではなかった。
八年前に消えた、リラの母親の声だった。