あらすじ
死にたい。いつからそう思うようになったのかは、もう覚えていない。
人生が不幸だったわけではない。飯は美味いし、酒も好きだ。友人と遊べば楽しいし、恋人と過ごす時間も嫌いではなかった。
それでも、死にたい。
二十八歳の会社員だった男は、そんな思いを抱えたまま、ある夜、不慮の事故で命を落とす。
ようやく死ねた。
これで何もかも終わる。
願わくば輪廻から外れ、そのまま無に還りたい。
そう願ったはずだった。
次に目を覚ましたとき、彼は赤子になっていた。
そこは魔法が存在し、魔物が跋扈する世界。
高い城壁さえない辺境の村では、人々は魔物の脅威と隣り合わせに暮らし、昨日まで言葉を交わしていた人間が明日も生きているとは限らない。
前世よりも遥かに、死が身近にある世界だった。
だからといって、彼は死に急がない。
面白いものがあれば見てみたい。
魔法があるなら使ってみたい。
美味いものがあれば食べたい。
約束をしたなら、守れるうちは守ればいい。
ただし、生きることを誰かに義務づけられるのだけは御免だった。
自分の命は、自分のもの。
他人の命は、他人のもの。
生きたい者がいるのなら、その生を尊重する。
助けたいと思えば、たとえ自分の命を危険に晒してでも手を伸ばす。
けれど、自分自身の死だけは誰にも委ねない。
これは、一度死んだ男に与えられた余分な人生。
死を望みながら、生を楽しむ。
そんな男の、二度目の生涯の物語。