あらすじ
ロザリア王国では、誰かが誰かを心から愛した瞬間に、淡い桃色の結晶――愛晶が生まれる。
愛晶は王都を守る魔法結界の燃料であり、王家の繁栄を支える最も重要な資源だ。
そのため、王国では毎年、王子の花嫁を決める「灰冠舞踏会」が開かれる。
選ばれた娘は、ガラスの靴を履き、王子の前でこう告げる。
「愛をくださいませ」
王子との婚姻によって生まれる巨大な愛晶が、王都を一年間守るのだ。
王宮菓子局で働く少女、ミレイユ・ノワールは、愛晶を舌で鑑定する職人だった。
彼女の母はかつて灰冠舞踏会に選ばれた花嫁候補だったが、愛晶を生み出した直後に死亡し、王家の記録から名前を消されている。
恋愛にも王子にも興味のないミレイユは、舞踏会の夜も閉会後に支給される焦がしプリンのことしか考えていなかった。
だが、花嫁候補の一人が、喉からガラスの薔薇を咲かせて死ぬ。
それは「愛の呪い」として処理されるはずだった。
しかしミレイユは、死んだ少女の口に残された結晶を舐め、違和感に気づく。
その愛晶は、恋によって生まれたものではない。
誰かに、心の奥から無理やり抜き取られた味がした。
さらに、王子セレスの持つガラスの靴は、なぜかミレイユの足にだけ合った。
王子は彼女に告げる。
「僕は今夜、君を花嫁に選ぶ。愛しているからではない。君だけが、僕の国の嘘を食べられるからだ」
王子の心臓は、幼いころに魔法の結晶へ置き換えられていた。
王国を守るために、歴代の花嫁たちから奪われた愛晶を蓄える、空っぽの心臓。
ミレイユは母の死の真相と王家の秘密を暴くため、偽りのシンデレラになる。
けれど、愛を利用していた王国の仕組みを壊すということは、王都に住む何十万もの人々の命を危険にさらすことでもあった。
「愛をくださいませ」と微笑む少女たちの中で、ミレイユは少しずつ知っていく。
愛とは、奪うものでも、捧げさせるものでもない。
相手を選び、選ばれなかったとしても、自分の足で歩くためのものなのだと。