あらすじ
糸蔵翔也、二十三歳。彼には、人には言えない秘密がある。
強いストレスや感情の乱れによって、人間の姿を保てなくなること。
そしてその身体が、巨大な狼へと変貌してしまうこと。
いつ変化するか分からない恐怖から、翔也は人との関わりを避け、自宅に引きこもって暮らしていた。
そんな彼を支えていたのが、唯一の親友・竜胆咲翔だった。
食料を買い、何かと世話を焼き、それでも特別扱いはしない。
翔也にとって、咲翔だけが安心して傍にいられる人間だった。
――あの日までは。
症状が悪化した翔也は狼となり、咲翔に重傷を負わせてしまう。
血まみれで倒れる親友を目の当たりにした翔也は、自分が彼を殺してしまったと思い込み、すべてから逃げるように姿を消した。
「俺は、やっぱり化け物なんだ」
それから翔也は、以前にも増して人間を遠ざけるようになる。
しかしある夜、外出先で突然狼の姿へ戻ってしまった翔也の前に、一人の女性――原野梨佳が現れる。
人間を簡単に傷つけられる巨体を震わせながら、翔也は彼女に懇願した。
「……お願いだから、近づかないで」
梨佳は怖がった。
それでも、逃げなかった。
「じゃあ、ここにいる。近づかなければいいんでしょう?」
その出会いをきっかけに、止まっていた翔也の時間が少しずつ動き始める。
そしてある日。
「……お前、何してんだよ」
二度と聞けないと思っていた声がする。
振り返った先に立っていたのは――死んだと思っていた親友だった。
「勝手に逃げようとすんじゃねえ。俺がどんな気持ちで、お前の前に立ってると思ってんだ」
狼になってしまう青年。
それでも彼を探し続けた親友。
そして、化け物の姿で泣いていた彼の隣に残った女性。
これは、化け物が人間になる物語ではない。
自分を化け物と呼ぶ青年が、もう一度誰かの隣で生きることを選ぶまでの物語。