あらすじ
人類の声は小さすぎる。 だが、階段を登る足音だけは、まだ消えていない。
人類が暮らす巨大構造体アラ・ベストは、惑星の生命圏と静かに対峙している。
その外側では、昆虫から鳥類、獣に至るまで、あらゆる生物が理由の分からぬ執念で巨塔へと押し寄せ、内側ではわずかな人々が日常を保ちながら、世界の変調を見つめている。だが、誰もその「理由」を知らない。
一方、塔の内部では、階層を貫く非常階段を登る者が現れる。
退屈な日常から抜け出すように一歩を踏み出した者、
ただ好奇心に突き動かされて上層へ向かう者、
そして、長い孤独の果てに使命を受け継ぐ者。
彼らは互いに姿を知らぬまま、塔の深部でゆっくりと交差していく。
同時に、別の世界線では、古代の王国、宇宙調査艦隊、そして多層の歴史が静かに流れ続ける。
それらは互いに無関係に見えながら、どこかで必ず響き合い、
「世界線」という名の大きな川の上で、ひとつの物語へと収束していく。
第20部は、巨塔をめぐる攻防、階段を登る者たちの旅路、
そして世界線場という深層構造の気配が、少しずつ輪郭を現す章である。
人類と生命圏、過去と未来、現実と可能性。
そのすべてが静かに揺らぎながら、次の世界線へ向かっていく。