あらすじ
男が三十人にひとりしかいない日本で、俺は女性の家に上がる仕事をしている。
初めての客は三十四歳の人妻。台所で指先が触れた瞬間、彼女は青ざめて言った。「ごめんなさい、通報しないで」
俺は答えた。「嫌じゃないですよ」――この世界の男は、そう言わないらしい。
男性保護法のもと、男は守られ、女は触れることを我慢して生きている。
男は嫌がるのが当たり前で、女は嫌がられるのが当たり前。
そんな世界で、俺=成瀬律(二十四)は家事代行会社でただ一人の男性スタッフとして、人妻・女医・未亡人の家を回る。
一メートルの距離、一回三時間、ポケットの緊急ブザー。守るべき枠は三つある。
でも俺は、泣いている人の手を、振りほどいたことがない。
「次も、あなたで」。指名は三か月先まで埋まり、女社長は何かを知っている顔で黙っている。
四年前の春、駅で泣いていた女の人を抱きしめた。あの人がどうなったか、俺はまだ知らない。
※性行為の直接描写はありません。直前と事後の情景で描きます。