あらすじ
「何名死ぬ計算ですか、鷺宮中尉殿」
「七名以内です」
皇国陸軍の観測壕。そう答えたのは、白手袋の下で右手を震わせている十八歳だった。
|鷺宮静流《さぎのみや・しずる》、陸軍砲兵中尉。皇国を陰陽道で守護する鎮護五家の筆頭、鷺宮侯爵家の令嬢。式神の目と地脈の震動から、見えない敵砲兵の座標を割り出す観測将校である。損害を数字で見積もり、味方を囮にすることをためらわない。
問い返したのは、灰銀の角を持つ鬼族の軍曹、|榊冬馬《さかき・とうま》、二十四歳。砲声の違いだけで敵砲の種類と距離を聞き分ける八年目の古参でありながら、妖裔であるという理由で士官学校の門をくぐれない男だった。
静流が座標を出し、冬馬が命令の届かない場所を自分の判断で埋める。二人でひとつの座標を持てるようになるまでに、二人は何人も喪う。そして静流は、その信頼を兵器として使う日を迎える。
やがて彼女は知る。皇都を守る大結界が、妖裔の身体から採った霊質を燃料にしていること。その炉を設計したのが、自分の父であること。次の砲撃目標に選ばれたのが、冬馬の故郷であること。
命令に従えば数千人が炉の燃料になり、拒めば戦線が崩れて皇都が焼ける。静流は家名と指揮権を机に置き、冬馬は共同責任者の欄に名を書いた。
和風近代戦記 × 身分差の共闘ロマンス。
恋の言葉は、軍籍を離れるまで交わされません。