あらすじ
志賀道久、三十九歳、無職。十四年尽くした大手クランから「ナビAIのほうが安い」と切られた、元専属の地図屋だ。今夜も暇つぶしに迷宮の浅層を歩き、視聴者十二人の配信で壁の継ぎ目を撫でては「明後日あたり、ここは壁になる」と呟く。本人は長年の勘だと思っている。
だが組み替え事故で第五層に孤立した新人が配信に助けを求めてきたとき、その勘だけを頼りにした道久の口頭ナビで、彼女は公社の救助隊より先に生還した。
切り抜きが拡散した数日後、アパートの前に立っていたのは、単独最深記録を持つ人類最強・氷室灯。彼女が見ていたのは救助の切り抜きではなく、事故の四日前の配信だった。
「私の専属ナビゲーターになってください」
戦えないおっさんの手仕事が、誰も帰れない深層へ道を引きはじめる。そしていつか、自分を切り捨てた元クランが、深層で迷子になって頭を下げに来る。