あらすじ


「四番だから、打たなければならない」

県立相模野高校女子野球部の二年生・岸田裕子は、腰まで届く長い黒髪をポニーテールに束ね、四番打者としてグラウンドに立っていた。

誰よりも野球が好きだったはずなのに、夏の大会が近づくにつれ、打席に立つことが怖くなっていく。

打たなければ。
期待に応えなければ。
失敗してはいけない――。

重圧に押し潰された裕子はスランプに陥り、ついには四番を外されてしまう。

そんな雨の日、裕子が足を止めたのは、商店街の外れにある一軒の古い床屋だった。

腰まで伸ばした髪は、亡き母との大切な思い出でもある。
簡単に捨てられるものではない。

それでも裕子は理容椅子に座り、自ら告げる。

「坊主にしてください」

鋏が入り、何年も伸ばしてきた長い髪が一束ずつ切り離されていく。
背中を覆っていた黒髪が床へ落ち、鏡の中のシルエットがロングヘアの少女から不揃いなショートヘアへ変わる。

そして鳴り始めるバリカン。

六ミリ。
さらに三ミリへ。

耳が現れ、襟足が消え、頭の丸みが露わになっていくたび、裕子は髪と一緒に、自分が抱え込んでいたものと向き合っていく。

しかし、髪を切ったから強くなれるわけではない。
覚悟を決めたから勝てるわけでもない。
努力した者が必ず報われるほど、スポーツは優しくない。

それでも――人は、もう一度打席に立つことができる。

長い髪を失った少女が手に入れたのは、「絶対に失敗しない強さ」ではなかった。

三振するかもしれない。
負けるかもしれない。
期待を裏切るかもしれない。

それでも、怖さごと抱えてバットを振り抜く強さだった。

亡き母との記憶、仲間との絆、四番としての重圧、そして全国大会への夢。

床屋の床に落ちていく黒髪とともに、一人の少女のシルエットと心が大きく変わっていく。

切っても残るものがある。
負けても残るものがある。
そして人は、その残ったものを抱えて、次の打席へ向かう。

女子高校野球の夏を舞台に描く、挫折と再生、継承と成長の青春スポ根物語。

『白球の下に髪は落ちる』

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アルファポリス
アルファポリス2026/09/23
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