あらすじ
血を一滴、捧げれば、火が灯る。傷が癒える。 そんな小さな魔法が、暮らしのそこかしこにある世界。
レイラは、その魔法を、戦うために使っていた。
幼い頃から戦場で育ち、誰よりも強く、誰よりも正確に戦う少女。 人は彼女を、恐れを込めて「戦姫」と呼んだ。けれど、終わりの見えない戦争のさなか、師匠は彼女を戦場から連れ出した。 「この子は、戦のない世界にいた方がいい」——ただ、そう信じて。
連れてこられたのは、とある貴族の屋敷。 レイラの新しい仕事は、メイド。主人は少し不真面目で、優しく、若き当主ノエルだった。
掃除、洗濯、料理。どれも完璧にこなすレイラだけれど、一つだけ、できないことがあった。
「シエルは、どうしたいの?」
主人の何気ない問いに、彼女は答えられない。 嬉しい、悲しい、楽しい——そういう感情の名前を、彼女はまだ知らない。 知らないだけ。心がないわけじゃない。
祭りの灯り。初めての賑やかな食卓。名前を持たない少年との出会い。 少しずつ、本当に少しずつ、レイラは「人の心」を知っていく。
——けれど、戦争は終わっていない。 銀髪のメイドにまつわる噂は、静かに街に広がり始めていて。
戦うことしか知らなかった少女が、はじめて「自分の明日」を選ぶまでの、切なくてあたたかな物語。