あらすじ

昭和四十八年、五月。 あの男と、目が合った。 買い物帰りの安岡あずみは、商店街の裏路地で強盗を目撃する。 逃げればよかった。 叫べばよかった。 けれど両腕には、缶詰の入った重い紙袋があった。 動けないあずみへ、顔を隠した男が近づいてくる。 「警察に言ったら、どうなるか分かるな」 その声を聞いた瞬間から、家へ帰ることさえ怖くなった。 あとをつけられていたら。 家を知られたら。 母まで巻き込まれたら。 あずみは誰にも見られていないことを確かめながら、母と二人で暮らす家へ逃げ帰る。 そして翌日。 玄関を訪ねてきたのは、一人の警察官だった。 「この辺りで、怪しい男を見ませんでしたか」 制服を着ている。 警察手帳も持っている。 どこから見ても、普通の警察官にしか見えない。 それなのに母は、その男が帰ったあと、ぽつりと呟く。 「あのお巡りさん、本物だったのかしら」 制服を着ていれば、警察官。 警察手帳を見せれば、本物。 昨日までは、それでよかった。 けれど一度疑い始めると、玄関の向こうに立つ人間が誰なのかさえ分からなくなっていく。 昭和の住宅街を舞台に、母と娘の日常へ静かに忍び込んでくる違和感。 これは、ひとりの強盗を目撃したことから始まる、 「信じること」が少しずつ壊れていく物語。

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カクヨム
カクヨム2026/09/22
  • 現在の作品『警察に言ったらどうなるか分かるな、と脅された翌日――「警察です」と男が家に来た』