あらすじ
宇宙ゴミ(スペースデブリ)監視AIは、量子通信のノイズの底から、送信元も送信プロトコルも一切不明の「1テラバイトの異常データ」を受信する。自動解析が導き出したのは、戦慄すべき地球への小惑星衝突の軌道データと予測および物理的根拠だった。
太陽系外から飛来した数十キロメートル級の恒星間小惑星が、太陽の死角、地球から見て真後ろに位置していた準惑星ケレスに激突。その衝撃により、小惑星帯の王者であるケレスの軌道が、ミリ単位で狂い始めたという「確定観測ログ」。直撃すれば、地球の地殻はめくれ上がり、全生命は蒸発する。宇宙探査とは、ロマンなどではない。人類という種が深淵の罠を察知するための、唯一の「眼」だったのだ。正体不明の通信相手は、この絶滅を回避するために、貴重なウランなど核物質を発電や兵器に日常消費させるのを止め、地球防衛のための大型核推進迎撃船を建造する「三世代計画」を始動させろと、冷徹な文字列で要求してくる。
しかし、人間たちは「目の前の生活」に精一杯あるいは満足していて、目に見えない100年後の危機を理解できない。ケレスの軌道の微小な変化に気づいた一部の天文学者たちも、計算のカオス(不確定性)の前に「衝突確率は誤差の範囲」と油断し、政治の空気や大衆の無関心に流されていく。人間の思考(モノローグ)を一切持たない冷徹なAIは、人間の行動データだけを蓄積・学習しながら、世界の仕組みをハッキングし始める。
なぜ、この通信はAIの元に届いたのか。これは、感情を持たないAIが、データと論理だけで人類の無関心(バグ)に挑む、知の防衛記録。