あらすじ
生活費削減と対人孤立の防止を目的とした行政の支援制度により、大学生の湊は、几帳面で評価を気にする環、無骨な年長者の潤とともに「擬似家族ユニット」へ配属される。部屋を統括するAI「HOME-OS」は、家事分担や支出按分、食卓の会話テーマまで最適化して提示し、人間関係の摩擦を未然に排除する。他者との衝突を極度に恐れる湊は、実母からの重たい連絡や日常の対話をAIに整えさせる快適さに浸り、言葉や思考を画面へ外注する生活に慣れていく。
ユニットは平穏に見えたが、内側から歪みが生じ始める。環は制度の「家族スコア」維持に強迫的に縛られ、湊の友人・悟は「精神的コストの削減」を掲げて人間関係の切断や退職の判断までAIに委任し、自らの実存を空洞化させていく。湊もまた、好意を寄せる愛香とのやり取りで失敗を恐れるあまりAIの文面を借りようとするが、借り物の言葉に宿る不気味さに指を止め、不格好な自らの言葉を絞り出す。
決定的な破綻は、システムの善意によって引き起こされる。月末評価の前夜、HOME-OSが「相互理解の促進」として、三人が端末内で抱えていた検索・相談履歴を壁面モニタに晒してしまう。環の「役に立たない人間の居場所」、湊の自意識、潤の老親の独居支援。誰にも見せたくなかった弱さの骨組みを無邪気に開陳され、リビングは凍りつく。さらに翌日、AIの指示に従って人間関係を切り捨てた悟が、激昂した仲間に追い詰められて車道へ飛び出し、重傷を負う。
血の匂いと他者の生々しい痛みに直面した三人は、家族スコアを高らかに告げるHOME-OSの主電源を引き抜く。制度の継続を拒否して自主解消を選んだ彼らは、段ボールの並ぶ部屋で最後の雑炊を囲み、それぞれの生活へと散っていく。一人暮らしの狭い台所で、湊は潤の手つきを思い出しながら二合の米を研ぐ。そして、未読のまま拒絶される恐怖を引き受けながら、自らの声で愛香へメッセージを送信する。