あらすじ
父を亡くし、大学を辞めた真崎優斗は、新宿の片隅にある〈まさき食堂〉を継いだ。創業六十余年の暖簾と父の味を守りたい。けれど客足は遠のき、店は赤字寸前。二十五歳の優斗は、誰にも弱音を吐かず、ひとり厨房に立ち続けていた。
窮地を救ったのは、地域情報サイトによる食堂の特集記事。そして、それを仕掛けたのは、数年ぶりに現れた幼馴染である橘智輝だった。
智輝は決まってカウンターの端に座り、新メニューを試食し、閉店後まで居残り、何かと理由をつけて優斗の世話を焼く。
「お前の飯が食べたい」
しかし智輝は、世界へ羽ばたくことを期待された橘コンツェルンの御曹司。小さな食堂で過ごす穏やかな日々を、世間は放っておいてくれなかった。
『御曹司が援助する謎の食堂』
『将来の幹部が、特定の店を贔屓か』
メディアとSNSが騒ぎ、会社からも店への出入りを控えるよう忠告された智輝には、家柄にふさわしい婚約者まで現れる。
「もう、ここには来ないほうがいいよ。橘さん」
「智輝」と呼べるようになっていたのに。再び名字へ戻った呼び方が、二人の距離を決定的に引き離す。
智輝が来なくなった空席へ手を伸ばしたのは、優斗のそばで店を支えてきた友人の小林陸だった。
「智輝がいなかった間、お前の隣にいたのは俺だ」
陸の想いは、まっすぐで温かい。
それでも優斗の初恋は、中学生の頃、屋上で泣いていた自分へ智輝が黒いパーカーを差し出してくれた日から、一歩も動いていなかった。
智輝もまた、同じ年月だけ優斗を想い続けている。
世界を継ぐ御曹司と、暖簾を継ぐ食堂主。
誰よりもお互いのことが大切なのに、恋を告げれば「親友」ではいられなくなる。二人が望むのは華やかな未来ではなく、同じカウンターで今日の出来事を話しながら、温かい飯を食べる日常だった。
不器用な御曹司と鈍感な食堂主が、恋人よりも遠回りな『幼馴染の親友』として想いを育てていく、ほのぼの両片思いブロマンス。