あらすじ
ずっと憧れていた女性・愛佳(あいか)と結婚し、これ以上ないほど穏やかで幸せな日々を手に入れた泉(いずみ)。
ある秋の夕暮れ、二人は泉が大学時代を過ごした京都を訪れ、仲睦まじく街を歩いていた。
しかし、日が落ちて夜気が冷え込んできた通りで、泉はあり得ないものと遭遇する。
街灯の下に立っていたのは、身なりが荒れ、絶望に目を濁らせた6年前の「自分自身」だった。
『よく世界を騙し通したもんだ。昔、あいつを追いかけてた頃の俺がどれだけ無様だったか、忘れたふりして』
過去の自分は、幸せの絶頂にいる現在の泉に向かって、冷酷に言葉を突きつける。
愛佳に「可哀想だから」と同情され、男としての尊厳を徹底的に打ち砕かれたあの夜。惨めで、痛々しく、ただの害虫のように扱われた記憶が、現在の幸せを侵食していく。
愛する人の隣で、目を背けたくなるほどみっともない「過去の自分」と対峙したとき、泉はどう向き合うのか——。
過去の傷と現在の幸福が交差する、切なくもほろ苦い心理的ロマンス。