あらすじ
三年前の失恋から、時間が止まったままの尾上湊、二十一歳。
学校を卒業しても。
仕事を始めても。
周りだけが先へ進んでいくような気がしていた。
そんなある夜。
昔住んでいた街で一人煙草を吸っていた湊は、銀髪に水色の瞳をした年上の女――林澪に声をかけられる。
「うちの店で飲んでかない?」
連れていかれた、小さなスナック。
煙草の火を移してもらって。
どうでもいい話をして。
少しだけ笑って。
酔った勢いで、湊は言う。
「犬って、いいですよね」
笑われると思った。
けれど、澪は笑わなかった。
「尾上くん、ワンって言いなよ」
客と店員。
仕事と素顔。
煙草と煙草。
傷はまだ残っている。
過去だって、綺麗には終わっていない。
それでも。
恋愛なんて、トラウマを抱えたままでもいい。
恋の始まりなんて、案外こんなものなのかもしれない。
次に会ってもいい。
そう思える誰かと出会った、たった一晩の物語。