あらすじ
中学校の事務職員として働く吉田。
窓口に立つ保護者。
欠席を知らせる電話。
忘れ物を届けに来る母親。
廊下ですれ違う、ほんの短い会話。
一年生の娘・美沙を気にかけ、何度も学校を訪れる桐谷さんも、最初は大勢いる保護者の一人にすぎなかった。
けれど三年間、娘の成長とともに彼女の姿を見続けるうちに、吉田の日常には少しずつ小さな変化が積み重なっていく。
声を聞けば分かるようになった。
姿が見えれば、つい目で追うようになった。
来ない日には、なぜか気になるようになった。
それでも吉田は、その理由を知らない。
そして迎えた卒業の日。
淡い藤色の着物を着た彼女は、最後に事務室へやって来る。
大きな事件も、特別な関係もない。
ただ、日々の片隅に静かに残っていった、一人の女性の記憶の話。