あらすじ
十八歳の公爵令嬢ティア・グレンヴィルは、祖国との同盟のため、海を越えた大国イオスフィア帝国へ嫁ぐことになった。
しかし、皇宮で彼女を待っていたのは、まだ十一歳の第七皇子、カリス・シュレースヴィヒだった。
「ようこそ、僕の妃」
初めて会った日、カリスは幼いながらも堂々とティアへ手を差し出し、皇子らしくそう告げた。
皇帝から顧みられず、母を早くに亡くし、有力な後ろ盾も持たない第七皇子。
華やかな皇宮の中で、カリスはいつも一人だった。
兄皇子たちから侮られても決して弱音を吐かず、まだ十一歳でありながら、自分を慕ってくれるわずかな家臣たちを守ろうと懸命に努力していた。
そんな彼と過ごすうち、ティアの胸には一つの想いが芽生えていく。
せめて自分だけは、この少年の絶対的な味方でありたい、と。
政略によって結ばれた形式だけの婚約者だった二人は、いつしか誰よりも近い、家族のような存在になっていった。
ーーけれど、一年後。
皇帝が病に倒れたことをきっかけに、帝国を揺るがす皇位継承争いが始まる。
皇子たちは互いに争い、皇宮では暗殺と裏切りが横行するようになる。
ティアまでが政争の標的となることを恐れた十二歳のカリスは、ある決断を下した。
それは、ティアとの婚約を破棄し、彼女を祖国へ帰すこと。
そうして二人は別れた。
ティアはイオスフィア帝国を去り、カリスとの一年を胸の奥へしまい込んだ。
もう二度と会うことはないと思っていた。
ーーそれから、九年。
二十七歳となったティアのもとへ、思いもよらない人物が現れる。
イオスフィア帝国皇帝、カリス・シュレースヴィヒ。
かつて十一歳だった孤独な少年は、兄皇子たちとの血塗られた皇位争いを生き抜き、二十歳にして帝国の頂点へ上り詰めていた。
しかも、彼は使者を遣わすのではなく、自ら国境を越えティアを迎えにやって来たのだ。
幼かった面影を残しながらも、見違えるほど美しく、威厳ある青年となったカリス。
彼は驚くティアの前へ歩み寄ると、あの日と同じように手を差し出した。
「迎えに来ましたよ。私の妃」