あらすじ
「お前が、俺の村を焼かせたと聞いた」
玉座の間で、勇者の剣が俺の胸を貫いた。
違う。俺は村など焼かせていない。だが〈黒公子〉と呼ばれた男の言葉を信じる者は、あの場に一人もいなかった。
目を開けると、十年前の朝だった。俺は十八歳で、勇者カレルはまだ八歳。そしてあいつの村は、明日焼かれる。
馬を飛ばして着いた村の前で、俺の家の紋を付けた兵たちが松明を掲げていた。
俺は剣を抜く。使うのは、十年後にあいつが俺を斬った、あの一太刀だ。
泥だらけの子供が、俺を睨んでいる。
「離せよ! 貴族なんか大っ嫌いだ!」
「今日からお前は俺の従者だ。逆らえば飯を抜く」
王都の貴族たちは噂する。「黒公子が孤児を買った。殺し屋に仕立てるつもりだ」
あの玉座の間で俺に不利な証言をした〈孤児院の聖女〉は、子供を取り返しに屋敷へ乗り込んでくる。あの一太刀の噂を聞いた先代の勇者は、焼き菓子をねだって居座った。
弟子は師匠を睨みながら、剣を覚え、字を覚え、飯を三杯食べる。
十年後の成人の儀で、この剣はどちらを向くのか。
俺を殺す男を、俺が育てる。