あらすじ

幼い頃から将棋の才能に恵まれ、地元では無敗を誇っていた少年・田辺(仮名の語り手)は、東京の奨励会試験に合格し、プロ棋士を目指す道へ足を踏み入れる。故郷での成功を「当然のこと」と信じ、東京でも頭角を現せるはずだと確信していたが、初めての例会で年下の会員にあっさりと敗れ、その自信は瞬く間に打ち砕かれる。 以降、田辺は勝てない日々の中で孤立し、「自分だけが特別に苦しんでいる」という感覚を抱えたまま、負けを一人で抱え込むようになる。 転機となるのは、地味で目立たない同期・坂本との出会いだった。互いの弱さを見せ合ううちに、田辺は自分の苦しみが決して特別なものではなく、周囲の誰もが同じように戦っていることに気づき始める。また、昇段できないまま奨励会に居続ける「万年三段」の先輩からも、「勝てない自分を認めることの大切さ」を教えられる。 年齢制限を間近に控えながらも淡々と盤に向かい続ける坂本の姿や、帰郷の折に師範からかけられた「盤の前に座り続けることそのものに意味がある」という言葉を通じて、田辺は勝敗そのものよりも、苦しみながらも同じ場所に立ち続ける他者とのつながりの中に、自分の居場所を見出していく。 物語は、田辺が今日もまた敗れながら、それでも明日また盤の前に座ろうとする静かな決意——駒を箱にしまう音に耳を澄ませる場面——で幕を閉じる。

連載情報

ウェブ小説

配信言語
小説を読もう
小説を読もう2026/09/21
  • 現在の作品僕には才能がない