あらすじ
穂波国(ほなみこく)には、奇妙な決まりがある。 三年に一度、王都の官吏と田舎の農民が籤で選ばれ、一年間、職も住まいも俸給もそっくり入れ替わる。「換職の令」だ。
籤で「黒札」を引いた官吏・桐生環(31)は、毒物検査なら国で一番、鍬の握り方なら国で最下位。 入れ替わりの相手は、北の寒村で山羊と暮らす小作農の娘・ノギ(23)。字が読めて、口が悪くて、王都の靴を一目で見限る目を持っている。
引き継ぎ書は、八十二頁の「推定」と、たった十二行の「実感」。 やがて二人は、それぞれの場所で、同じ「黒い角」の影に行き当たる。
畑で見つかった、麦を蝕む「鬼の爪」。 帳簿の中で見つかった、村を飢えさせた「数字」。
換職の掟により、二人は一年間、会えない。許されるのは、検閲つきの手紙だけ。 罵倒から始まった往復書簡は、やがて、国そのものを疑う告発状に変わってゆく。