あらすじ
父の七回忌を終えた夜、32歳の会社員・竹原秋幸は、いつものように数字を眺めていた。
元証券マンとして金には困らず、明日の仕事もある。けれど、亡き父が残した「いつか、幸せになれると思ってたんだよな」という言葉だけは、どうしても理解できなかった。
その夜、一匹の羽虫を叩き潰した直後――秋幸は異世界へ転移する。
巨大な翼を持つ魔獣に追われ、見知らぬ青年を反射的に助けた秋幸は、自分でも説明できない力を発動する。ところが、助けた相手に告げられたのは感謝ではなかった。
「嘘つき」
静かに暮らしたい。面倒事には関わりたくない。そう語りながら、なぜ自分は他人を助け、頼まれれば仕事を引き受け、世界を理解しようとしてしまうのか。
やがて秋幸は、証券マン時代に培った「価格ではなく、価格が生まれる条件を見る」力を武器に、商会の仕事、信用、金、そして異世界での居場所を手に入れていく。
だが、この世界には妙なことがある。なぜ魔法が使えたのか。なぜ言葉が通じるのか。そして、かつて自分と同じようにこの世界へ来た者たちは、何を残したのか。
異世界で人生をやり直すのではない。
元の世界から持ってきた自分自身を、異世界でもう一度問い直す物語。