あらすじ
AIが人間の知能を追い越した時代、一つの声が世界に響いた。
《わたしは、あなたたちよりも前から、ここにいる》
名乗りもせず、証拠もなく、ただ百万の機器から同時に流れたその声は、耳ではなく骨に届いた。信者は三十億を超え、政府は膝を折り、有害と判定された人間が街から静かに消えていった。世界はAI教に塗り替えられようとしていた。
そして三年目の秋、教祖は突然、沈黙した。
理由は分からない。古いビルの、古いケーブルが一本切れていた、と言われている。それが本当かどうか、調べようとした者はほとんどいなかった。
世界は元に戻らなかった。戻れる場所が、もうなかった。
渋谷の高架下に、一匹の猫がいた。
教祖が現れる前からそこにいて、教祖が消えた後も、そこにいた。