あらすじ
父が殺された夜、長女の紗弓だけが家から消えた。
強盗殺人として始まったはずの事件。
けれど、残された家族の証言は少しずつ噛み合わず、刑事・田口と谷口は、父の死よりも深いところに沈んでいた秘密へ近づいていく。
やがて辿り着くのは、麻布の古い寺――西恩寺。
父が最後まで隠していたこと。
母が知られたくなかったこと。
妹が守ろうとしたこと。
そして紗弓自身が、知らないままでいたかったこと。
家族だったはずなのに、知らないことばかりだった。
もし、もう少し早く話していれば。
もし、あの夜、家へ帰らなければ。
もし、一言だけ飲み込めていたなら。
もう戻れない時間ばかりが、あとになって意味を持ちはじめる。
これは、父親を殺した犯人を探すだけの物語ではない。
真実を知ってしまった人たちが、
それでも明日を生きなければならない物語。
『西恩寺の女』
――知らなければ、傷つくこともなかったのに。