あらすじ
「この人に、ぜんぶ差し上げます」
千年ぶりの召喚に応じた女神は、跪いた百人を素通りして、真っ先にそう言った。
祝福は三つまで。四つ目を注げば器が壊れる。それがこの世界の理だった。彼女はそれを、居合わせた全員の前で破った。
天野碧、十七歳。実家は町の小さな洋食屋で、継ぐつもりでいた。もらったのは上限のない力と、返し方のわからない期待だった。
国は彼を勇者と呼び、救ってくださいと言った。碧は三万人の前で、こう答えた。
救えるかはわかりません。でも、飯なら作れます。
その日から彼がやったのは、水の出ない通りに井戸を掘ることと、腹を空かせた者の前に椀を置くことだった。魔王を倒す話は、まだ始まらない。
そして気づけば、飯を食わせた相手が増えていく。嘘の下手な女神。四年間、机の上で止められていた王女。番号で呼ばれていた獣人の少女。全員を数えている記録係。
北の空の下では、千年を生きた男が一人、南に立った光の柱を見上げている。