あらすじ
海外版のサンプル訳に、たった一行だけ返した。
『正確すぎて、愛がない訳だと思いました』
それだけのことだった。恋愛小説家・水城灯子、三十一歳。筆名は星野あかり。
他人を本気で好きになったことがないまま、観察と技巧だけで十年、恋愛を書いてきた。条件として提示されたのは、刊行までの毎週の検討会。
場所は、訳者の自宅の書斎。
現れたのは、身体の大きな、黒縁眼鏡の男だった。
「見えないくらいが、いいよ」
この男は、灯子の本を十年、読んでいた。
一行の読点の位置まで、暗唱できるほどに。
冷房の効きすぎた密室で、毎週ひとつずつ、書いた人間のほうが読み解かれていく。
※性描写があります。