あらすじ

高校を卒業して七年。かつての夜守・山村凌は、北新地の路地に十五席の高級料亭「凌」を開いていた。看板に名を出したのは、討魔の登録名でも通り名でもなく、料理の名で残るためだ。 同じ専門学校で出汁を取り、同じように棚の一番上へ届かない茜が、厨房の隣に立っていた。先輩は守ることしか考えない、と彼女は言った。足りないのは受け取ることだ、とも。山村は夜守の頃から、千夜の前に立ち、香澄の光が切れる前に走り、渡すことのほうが早かった。 店が軌道に乗った冬、千夜が沈んでいないケーキを置いて帰る。箱の隅に香澄の梅。山村は、茜が一人で直す必要のない煮こごりを直している背中を見て、守る対象が街から一人に絞られたと知った。 プロポーズは二月、梅の香る座敷。膝はつかない。同じ高さで向き合う。蛤の吸い物を置き、「大切にするから、愛を受け取ってほしい」と、練習通りには出ない息で言った。茜は店を持たない自分を理由にする。山村は十五席のうち三席が、彼女がメニューを増やすための席だと答える。 茜は受け取る。返さない、煮こごりみたいに固めておく、と。翌日、千夜は「山村らしい」と返し、鈴木は席数の表を送り、香澄は梅の写真を、氷室は既読だけを残す。暖簾の重さの名は茜。受け取った愛の分だけ、出汁は濃くなる。

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エブリスタ2026/09/20
  • 現在の作品大切にするから愛を受け取って