あらすじ
新宿迷宮、十九階層。
二十階層の「門番」に八年間誰も勝てないせいで、ここは探索者たちにとって
「引き返す手前の、最後の休憩所」になっている。
その片隅に、なぜか定食屋がある。
店主の名は黒木定。三十歳。口数が少なく、愛想もなく、攻略の助言もしない。
ただ、腹を空かせて降りてきた探索者に、黙って飯を出すだけ。
十五の発現式で授かったスキルは【保存】。
「物をしまっておけるだけ」と笑われ、S級パーティーにいた頃も「荷物持ち」と
呼ばれ続けた、正真正銘のハズレスキル――のはずだった。
食材が腐らない。出汁の味が落ちない。だから飯屋には都合がいい。
本人はそう思っている。本当に、それだけだと思っている。
けれど、この店の飯を食った人間は、なぜか見てしまう。
その食材が生きていた場所の景色を。まだ誰も辿り着けていない、深い場所の景色を。
――八年ぶりに、二十階層の味がした。
いらっしゃい。攻略はしませんが、定食はあります。