あらすじ
「私の二十年は、この熱病の数日間に完全敗北した」
1858年、マレー諸島の僻地。マラリアの高熱に浮かされる名もなき標本採集人、アルフレッド・ラッセル・ウォレスは、世界のすべてを説明する完璧な『自然選択説』のシステムを電撃的にひらめく。
さらに彼は、赤子の発する最初の言葉――『リーガージョン(喃語)』に、進化論では決して説明のつかない「人間の過剰な脳」の謎を見出していた。
信頼する大博物学者チャールズ・ダーウィンへ送られた、一通の敬意に満ちた手紙。
しかし、その完璧すぎる論文を目にしたとき、二十年間理論を言語化できずにいた巨人は、己の敗北を知り激しく嘔吐する。
動き出す英国科学界、上流階級の「男たちの社会」。
本人があずかり知らぬ間に強行された「不在の共同発表」。
物量と政治力という巨大な消しゴムによって、真のシステム構築者の名前は、静かに、しかし完全に歴史から擦り消されていく――。
カミーユ・クローデルに続く、歴史の闇に葬られたもう一人の天才の物語。
科学の枠に魂を閉じ込めようとしたダーウィンと、言語の謎に人間の尊厳を見たウォレス。二人の歪んだ愛憎と知の簒奪を描く、歴史サスペンス。
「本書(本作品)はフィクションです。作中に登場する人物、団体、名称、地名、事件などはすべて架空のものであり、実在するいかなる対象とも一切関係ありません。また、特定の思想・信条・宗教を支援または誹謗中傷する意図はございません。」