あらすじ
両親が遺した、築百年以上の古民家。
一人で暮らすには広すぎる。
古いし、不便だし、維持費だって馬鹿にならない。
だから彼……飯野匠(いいのたくみ)は、時期が来たら売ってしまおうと思っていた。
ところが、その家を訪れた匠を待っていたのは、縁側でプリンを食べている黒髪おかっぱの女だった。
「我は八重(やえ)。この家じゃ」
どう見ても二十歳くらい。
古風な口調で、偉そうで、妙に俗っぽい。
当然、匠は信じなかった。
だが八重が指を動かせば、雨戸が閉まり、鍵がかかり、照明まで勝手に動き出す。
どうやら本当に、この女は「家そのもの」らしい。
しかも、とんでもなく面倒くさい。
匠が女性と会えば拗ねる。
嫉妬すれば玄関を開けない。
機嫌を損ねれば家中が大騒ぎ。
なのに匠の帰りが遅いと、ちゃっかり心配している。
家の中ではやりたい放題の八重だが、たった一つだけできないことがある。
八重は、この家から外へ出られない。
家を売りたい男・匠と、絶対に売られたくない家・八重。
ちょっと不便で、かなり騒がしい奇妙な同居生活が始まる。