あらすじ
奇跡は、ただじゃない。
辺境の子爵令嬢リーネは、雪の牛舎で目を覚ました。来年の冬、領民ごと凍えて死んだはずの自分が、母の葬儀の三日後に戻っている。
一度目の人生で、彼女は母の診療鞄を閉じた。牛医だった母の仕事を「牛臭い」と疎んじ、教会の"奇跡"に頼った。奇跡はよく効き、領は最初の冬をやすやすと越し、そして翌年から、人が静かに死にはじめた。
今度は鞄を開ける。湯と塩と蜂蜜、それから、数字。
治癒の奇跡が、誰かの寿命で支払われているのだとしたら。母が遺したノートに、その答えの端があった。
動物という動物に逃げられる「氷の辺境伯」。奇跡を使うたび指先が冷えていく、気弱な治癒士見習い。口の悪い牛飼いの爺さん。冬を越せなければ、領は国に返上される。
二度目の冬、リーネは奇跡が届ける請求書を、先に数えて突き返す。