あらすじ
気がつけば、揺れる馬車の中にいた。
前世の記憶はあるのに、ここがどこで自分が誰なのかがすぐには分からない。
向かう先で待つ幼い令嬢——ヴィオレッタの名前を思い出して、ようやく理解した。
ここは前世でやり込んだ乙女ゲームの世界で、これから会う少女は、いずれ断罪される悪役令嬢。
そして私は、その隣で一緒に破滅する取り巻きの一人なのだと。
初めは、未来を諦めていた。
けれど、背筋を伸ばして大人びた言葉を選ぶ六歳の少女が、組んだ手の陰で左手を震わせているのを見てしまった。
何も知らないこの子を、あの結末へ行かせたくない。そう思った。
未来を変えよう。
そう決めた私は、まだ知らなかった。
——あの子の断罪を知っているのが、私一人ではないことを。
やがて出会った四人の取り巻き令嬢も、全員が、私と同じ日に前世を思い出した転生者だった。
「ヴィオレッタ様は、断罪される」「私たちの家は、沈む」
同じ結末を知る五人は、あの子の隣に立つと決めた。
ところが、ある雨の日。
私がこぼした何気ない一言に、返ってきた答えはばらばらだった。
経営シミュレーション。戦記・戦略。ホラー。スペースファンタジーRPG。
乙女ゲームだと思っていたのは、私だけだった。
断罪から始まる悪役令嬢の物語を、取り巻きたちだけが知っている。
——ただし、五通りに。