あらすじ
記憶を保存する仕事がある。
中央記録局・第六保存室。
そこでは今日も、誰かが覚えていた些細な出来事を、紙と端末に残している。
「雨の日だけ窓側の席に座った」
「電車を見終わってから、話の続きをした」
「傘を閉じるのが早かった」
大したことではない。
けれど、誰かが覚えているなら、記録する。
新人職員ナギは、そこで初めて知る。
記憶は一つではない。
同じ人を見ても、覚えていることは人によって違う。
そして、この世界には「保持者」という制度がある。
誰かの存在を引き受ける人。
そして、引き受ける人がいない人。
その記録を扱う主任リオナには、どうしても忘れられない名前があった。
――ノア。
この世界で、人が人として残る条件とは何なのか。
静かな記録から始まる、記憶と存在の物語。