あらすじ
転移先で手に入れたのは、銅貨一枚の廃駅舎だった。
屋根は抜け、井戸にはスライム、暖炉はつかない。
ついてきたのは、魔王の王冠を斬ったと自称する、傷を極端に嫌う聖剣だけ。
元ゲストハウス店員の天野陸(リク)は、勇者にも領主にもなる気がない。
ただ、雨宿りできる場所が欲しかった。
最初の夜、灰色の耳を持つ十六人が扉を叩く。
ベッドは一床、鍋は穴だらけ。それでも彼は言った。
「泊まれる。最初の一晩は無料だ」
食べて、一晩過ごして、明日も残りたいと願う人がいる限り、古の帰巣炉は「家」を認める。
種族も、戦力も、忠誠もいらない。必要なのは明日のスープと、出ていける自由だ。
宿屋を開けば開くほど、人は集まる。
畑ができ、レンガが歌い、街道が延び、やがて荒野に国ができる。
——なりたくて、なったわけじゃない。