あらすじ
毎日が良い日なんて、そんな綺麗事(大嘘)があるものか。
明治末期、京都。相次ぐ我が子の死、精神を病んだ妻、そして極貧。
「生老病死」の生々しい地獄の底で、ボロボロのノートに向かって狂ったようにペンを走らせる一人の無名の講師がいた。のちの世界的哲学者、西田幾多郎である。
当時の日本の知識人たちを支配していたのは、西洋の完璧な近代理性――カントの「自力OS」であった。
だが、己の泥臭いエゴや理不尽な絶望(バグ)は、そんな小綺麗なシステムでは一ミリも救われない。
西田の唯一の理解者である仏教学者・鈴木大拙は、そんな彼に『歎異抄』の「絶対他力OS」を突きつける。「自力を捨て、全てを諦めて上書きされろ」と。
西洋の理性に徹底抗戦するか。東洋の仏に全面降伏するか。
引き裂かれる限界のなか、我が子が息を引き取るまさに「その一秒前」、西田の脳内である恐るべきハッキング(思想の統合)が起動する。
それは、かつて中国の禅僧・雲門が放った言葉――「良い悪い」という人間の主観を完全にバグ抜きし、地獄の現実すら絶対的な吉日へとひっくり返す、最強の新OS『善の研究』の誕生の瞬間だった。
天才たちの知性が火花を散らす、人間のエゴと宇宙のバグを巡る知的歴史ミステリー。