あらすじ
朝比奈美緒は法律事務所の応接室で、最後の書類に署名した。
養父の御影宗一郎は、すでに養子離縁届への署名を済ませている。美緒が日本を発つ七日後、双方の委任を受けた弁護士が正式に提出する手はずになっていた。
担当弁護士が机の上の書類をそろえる。
「離縁後は朝比奈姓に戻ります。御影家の資産管理信託に関する受益権、星凪島の終身利用権、宗一郎さんが予定されていた株式の譲渡についても、すべて辞退する。それで間違いありませんね」
「はい」
十二歳の春、母の再婚を機に、朝比奈美緒は御影美緒になった。
御影朔也が「叔父さん」になったのも、その年だ。
十八歳のとき、先に彼女へ口づけたのは朔也だった。
それから四年。
二人の関係は、家族にも伏せたまま続いてきた。
七日後、朔也は鳳条玲奈と結婚式を挙げる。
同じ日に、美緒は日本を離れる。
弁護士が書類を封筒へ戻した。
「では、予定どおり進めます」
美緒はうなずいた。
あと七日。
十年暮らした場所を出るには、それだけあれば十分だった。